雪というものには音がない
わけではない

雪は傘に
ふされ、ほそら、くすり、と降りてくる。

ぼもそ、ぬくに、ぐぐる

だんだん重くなってきて
ついに、ずぞぞぞ、と滑り落ちる。

雪というものには音がない
わけではない

というわけだ。

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教室農場

一日中蛍光灯を浴び
自分たちの人生を
規格通りに育てていく
子どもたち

凝視する教科書
凝固する思い

つぎつぎと黒板に「真理」が書き込まれ
こくこくとノートに写し取られていく

あふれかえる「真理」で
心のボタンが閉まらなくなった

弾け飛ぶボタン
のような
眠気

窓枠のすき間からは空も見えない

何を望むのか
何が望むのか
何に望むのか

ここにいるのは「自分」ではないらしい

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じくじくと


病んだ稲穂の先に垂れる雨
すでにいく日山里に降る

ぬかるむ田んぼ
老いたためいき

空はいつだ

雨の隙から虫の声
じりりりと
仲間を呼ぶ

ここで生きているぞと
声を出す

おれは?

痩せ衰えた山里は
じくじく泣くしかないのかと
こうべをあげて雨に立つ

2016/09/26 自由のひろばに投稿 2017年1月号に掲載

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父よ

父よ

   1

老人病棟に飛び交う幼児語に
いらだちながら
まれに機嫌のいいとき
父はヒゲをそらせる

生気をなくした肌を走るカミソリ
小さなきっかけで薄く血がにじむ
簡単に削がれる薄紙に
いのちの向こうが透けて見える

   2

天気いいよ、と看護師が言う。
起き上がれない父に見えるのは窓だけ

青空ははるかに遠い
若いころに仰いだ満州の空ほどに

   3

ざぶとん抱えて戦車の下に飛び込む
ことの意味が
子どもにはわからなかった
それが俺の人生だったとつぶやいた父の目に
浮かんでいたのは苦い雲
初老に近くなった今、失われた父の人生と声をはじめて悲しむ

   4

半透明の管が病床に伸び
不明瞭な影を落とす
わずかにつなぎとめられたいのち
うすく開かれ乾いたくちびるに
言葉は崩れ去る

その濁りの奥に
まだあの時の意志はあるのか
父よ

(2016.5.20 「じゆうのひろば」に投稿。9月号に掲載)

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オレニハカンガエテイルコトガアル
ポツリと父がつぶやく

直前 何があったのだったか
家に帰ろうとした?

ベッドに起き上がろうとする父は
すでに抗う力を持たず
抑えられるまま
静かに横になり目をつぶったのではなかったか

病室にだれがいるともわからぬままに
スンマセンなぁ、とだけ。
もう息子の顔も忘れてしまった

そして諦めて横を向く

つぶやくのはそんな時だ
オレニハカンガエテイルコトガアル

早く良くなって帰ろうな
(たぶん家にはもう帰れない)

オレニハカンガエテイルコトガアル

乾ききった父の目に何がにじむ

2016/01/22 『詩人会議』じゆうの広場に投稿
2016、5月号に掲載

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